読後感を簡単に書いておくと、池井戸さんが本当に正しいこととは何かと葛藤しながら、立ち返るのはやはり公平公正な競争であったということだったのでしょう。「談合」という、一見業界全体を調整で救い共存共栄を目指していく日本特有の旧来からのシステムは、しがらみや利害関係、業界を守るためになかなか抜け出せないだけの悪しき風習であったようです。
この「談合」をテーマに主人公の平太が悩みながら沢山の人々とのかかわりの中で成長していくのがこの本のテーマだったようですが、社会人10年目の私にとっては、平太の先輩である西田吾郎の立ち振る舞いや仕事っぷり、考え方や発言にはっとさせられ、色々と振り返るきっかけになったのかと思います。
印象的だったのが、地下鉄工事発注のためのコストダウンが限界になりながら、さらなるコストダウンを他部署の部長から強要されたときに、彼ははじめこそ憎まれ口だけ言っていたのが突然理路整然とそのコストダウンの限界について説明し、更に誰もが納得せざるを得ないような対案を出してメンバー全員を納得させてしまったシーンです。仕事の中でできないことに対してああだこうだと言い訳がましく自己を正当化することは誰にでもあることだと思いますが、この西田はなぜダメか、そして代わりにどういう方法があるのかというところまで結論を出してしまうところがすごいのです。
実はこれは尾形常務の指示だったようですが、それを忠実にこなしてしまうあたりが、西田のTHEサラリーマンたる所以だと思います。
色々と思うところもありつつ、この本を読んでいてやはり感じてしまったのが、ゼネコン業界というのはやはり成熟している、そしてゼネコン構造と言われる我々のIT業界は未熟だなーということでした。コストに対する考え方や見積基準、設計手法や品質管理といった項目が非常に高い次元で標準化されているからこそ「入札」という制度が成り立つのであって、我々IT業界、特にソフトウェア業界ではこのレベルに達するにはあと何十年必要なのか途方に暮れてしまいます。ただし、このような状況が逆に言うとこの産業の繁栄につながるのかもしれません。今は何が正しいかわかりませんが、いつしか「談合」が悪いことであると誰もが認識できるような絶対的な基準が我々の業界にもできてくれればいいのに切に願います。そのためにはユーザー(発注者)側もITシステムというものに対して理解を深めるべきだと思うのです。
話は横道に逸れましたが、この『鉄の骨』はこのような性質の小説なので、『空飛ぶタイヤ』に比べて全体的に流れる後ろめたい空気感が世界観を作り出しています。そして、ひたすら純粋な平太やその世界に染まったと思わせる西田や他の登場人物も、その中で必死にもがいている姿がよく描かれている良作だと思います。仕事にもがき苦しんでいるサラリーマン(特に10年選手)は必読です。
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